欅のみえる家から

中田明子(なかた あきこ)のブログ。心に響く短歌の備忘録。塔短歌会。

2019-01-01から1年間の記事一覧

塔7月号より

書を捨てねばここから出られず町へ出たいといふにはあらず /真中朋久 p4 一首のベースには「書を捨てよ、町に出よう」という寺山修司の言葉を思い浮かべます。今の自分を脱却するために、葛藤する主体。「書を捨てねば」変わることはできないということを深…

塔6月号より

何に触れても大きな音のする家に音を立てずに育つものあり /橋本恵美 p29 この家はおそらく大人ばかりの家。そこに子どものにぎやかな気配は感じられず、どこか張り詰めたような緊張感のあるしずけさとほのぐらさ。静寂であるがゆえに響いてしまう物音は、…

塔4月号より

白壁に冬の樹の影うきあがり生前の肩に手を置く前世 /山下泉 p6 〈生前〉という時間に〈前世〉という時間が手を置いている、つまり、前世はやがて生前と呼ぶべき時間となりうるものであり、ひとつながりのおおきな時間軸のなかに併存しています。上句の「う…

塔3月号より

傷つけるだけのことばが蝋燭を貫きほのおはのたうつ鳥よ冷ややかに燃やされている火を海とかんちがいして鳥が溺れる /江戸雪 p5 一首目、相手を傷つける言葉とわかっていてもその言葉しかなく、どうしようもなくその言葉を口にするのでしょう。炎をみながら…

塔2月号より

ゆきあいの湖と呼ぶべし躍層は静かに昼を崩れつつあり /永田淳 p6 「躍層」とは湖のある深度において、水温などが変化する層のことですが、この語彙により、湖の深さ、冷たい水の手ざわりというイメージが喚起されます。下句は作者の知的想像力によりイメー…

塔1月号より

音にもああ影はあるのだ拡声器の声が団地に反響している /乙部真実 p61 上句のフレーズ、これまで音にも影がある、というふうに具体的に認識をしたことがなかったけれど、言葉としてこのように定着されたことで、これまで漠然とは感じたことのあったはずの…

塔12月号より

君のなかの哀しみの量(かさ)わからない ときどき夜の床に落ちていて /前田康子 p5 近くで君を見ていても君は哀しみをさらけだしたりはしないのだけれど、不意にたとえば夜の床のようなところに、君の哀しみの欠けらだけが落ちていることに気づく作者。君の…