欅のみえる家から

中田明子(なかた あきこ)のブログ。心に響く短歌の備忘録。塔短歌会。

2018-01-01から1年間の記事一覧

塔11月号より

ひとつはしらふたつはしらとかぞへつつじふさんぼんをつりおろしたり /真中朋久 p5 「はしら」とは、神や位牌、遺骨などをかぞえる単位。数字のみが具体として提示され、事実のみが描かれながら、平仮名にひらかれた文体がその行為の意味をかみしめるかのよ…

水原紫苑歌集『びあんか』より

鳥たちは遊びのやうに北を指しわれにちひさき骰子残れり (骰子:ダイス) 「遊びのやうに」といわれて際立つのは、鳥たちが北をめざすのは本能にしたがうからであって、けして遊びなどではないということ。にもかかわらず、それは遊びのようにかろやかで、…

永井陽子歌集『ふしぎな楽器』より

人去りて闇に遊ばす十指より彌勒は垂らす泥のごときを 仏像に造詣のふかい作者。彌勒といえば、貴い存在としてみることが多いけれど、作者は人のいなくなった闇のなかで十指より泥を垂らす姿を想像します。では、「泥」の意味するものとは、、、。彌勒という…

塔9月号より

根こそぎになりて倒れてゆくときにみづならの樹は川を渡りぬ /小林幸子 P5 地崩れで倒れてしまったミズナラの樹。すこやかに根をはり立っているときには、たとえ望んでもけして渡ることかなわなかった川を、根こそぎになって、もうどうしようもない姿になっ…

塔8月号より

くるしさをくるしさで堰きとめたって孔雀の首には虹色がある /大森静佳 p59 孔雀のほそくながい首、あるいはその首から搾りだされるような、あの悲しげな鳴き声のイメージと相まって、くるしさをくるしさで堰きとめるということ、その作者の苦しさを、体感…

第8回塔短歌会賞受賞作「灰色の花」より

第8回塔短歌会賞受賞作、白水ま衣さんの「灰色の花」。画家二コラ・ド・スタールを連作の主題に置き、彼の絵、そして彼の内面にまでふかく迫りながら、同時にスタールに惹かれる作者自身のなかに息づく心理、自身の哲学のようなものまでもが表現された、と…

塔7月号より

さざなみが君の水面を覆いゆく銀色の笛を深く沈めて /松村正直 p6 君が内面に深く沈めるのだという「銀の笛」が印象的。銀という色、笛という存在の硬質な感じが、そのひとの内面の、核のようなものを思わせます。そしてそれは深く沈めて、たやすく誰かに触…

塔6月号より

さようならはここにとどまるために言う ハクモクレンの立ち尽くす道 /江戸雪 P5 「さようなら」は、離れゆくひとに向かっていう言葉であると同時に、自分はここにとどまるのだということをみずからに再認識させ、覚悟させるための言葉、言葉をこのようにと…

塔5月号より

冬をしまふ器のあらば幾たびも数ふる夕べ雪となりたり /溝川清久 p17 「冬をしまふ器」とは不思議な表現です。冬の日の翳りを抱え込むような、深い器などを思い浮かべます。そんな器があるならばその器を何度も数えるのだといって、静謐な雰囲気があります…

松村正直歌集『風のおとうと』

今日は松村正直さんの第四歌集『風のおとうと』を読む会に参加します。 いま、わたしのなかにあるものをここにまとめておきます。 読む会でみなさまの読みに出会えること、そしてそれによってこの歌集への思いをさらに深められるであろうことを楽しみにして…