欅のみえる家から

中田明子(なかた あきこ)のブログ。心に響く短歌の備忘録。塔短歌会。

2017-03-01から1ヶ月間の記事一覧

一首鑑賞〈青いながぐつ〉

雪の中とりのこされた靴がある子どものための青いながぐつ /安田茜「default 」 雪のなかにとりのこされた青い長靴は、たとえば雪をみればうれしくてあとさきも考えず飛び出していった幼さそのもののように、あるいはそんな子を案じつつ見守る親心ように、…

葛原妙子歌集『葡萄木立』より

水中より一尾の魚跳ねいでてたちまち水のおもて合はさりき 水面にぐぐっと接近した、的確にして無駄のない景の把握。そしてそれにより、魚が跳ねた、というだけにとどまらない雰囲気が醸しだされる。 「この歌は、ことばが発見する景の新鮮さという点におい…

葛原妙子歌集『原牛』より

あやまちて切りしロザリオ轉がりし玉のひとつひとつ皆薔薇 ロザリオの糸が切れて手元から転がっていくいくつもの珠が、薔薇の花へと姿を変える、そのさまが美しく目に浮かぶ。ロザリオは聖母マリアへの祈りの場面で身につけるものであり、薔薇は聖母マリアの…

塔2月号永田淳選歌欄評に

縁うすきグラスをひとつ拭きあげてさびしさは指さきからくるもの /中田明子「塔」2016年12月号 グラスを拭いているときは、指先に意識が向かう。文字を書いているときや毛糸を編んでいるときもそうだ。作者の「さびしさは指さきからくるもの」という見解に…

塔2月号若葉集より

泣いている理由は言わず人型を満たせるように子の育ちゆく /八木佐織「塔」2017年2月号 思春期の子だろう。感情の襞をどんどん増やしつつ、けれど言葉数の少なくなるこの時期の子どもというのはまさしくこんな感じなのだろう。巧みな比喩だと思う。 たけな…

塔2月号作品2より②

夢のなかの金魚はレプリカわれら姉妹幼く餌をちらしてゐたり /千村久仁子「塔」2017年2月号 亡くなられた妹さんをたびたび詠まれる作者。この歌も妹を思う心が見せた夢だったのだろう。夢であるということ、まして金魚がレプリカであることに言いようのない…

塔2月号作品2より

夫の引く線うつくしく交わればすべて機械は線から生まれる /吉田典「塔」2017年2月号 設計図に描かれる線だろう。精密に描かれた設計図は、それ自体ひとつの芸術作品のようである。それが夫の手になるものであれば、それはなお一層うつくしく感じるのだろう…