欅のみえる家から

中田明子(なかた あきこ)のブログ。心に響く短歌の備忘録。塔短歌会。

2017-06-01から1ヶ月間の記事一覧

一首鑑賞〈アップルパイ〉

歩きつつアップルパイを食べているpost-truthの時代の中で /廣野翔一「浚渫」 一読してなにより印象的なのは、たたみかけるように重ねられる「あ」音のあかるさである。このあかるさは単純なあかるさではない。どこか作りものめいた雰囲気がある。なぜだろ…

塔5月号作品一首評より

いつまでをここにとどまるわたしだろう風が芒を逆立てて、秋 /中田明子「塔」2017年3月号 秋が深まると芒の穂は逆立てたように膨らみ、いっそう白くなる。いつの間にか春も、そして夏も通り過ぎて、今はもう秋。風が冷たい。それなのに私はまだこんなところ…

一首鑑賞〈ナツツバキ〉

ナツツバキ遅れてごめんと駈けよれば約束なんかしてないと言う /小川ちとせ『箱庭の空』 ちょうどこの時期、白くうつくしい花を咲かせる夏椿。夏椿は別名を沙羅ともいい、朝ひらき夕方には落花してしまうその儚さでも知られている。 この歌の主体にはそんな…

塔5月号作品2より

呼び方を変える過程で消えてゆくものはなんだろう呼ぶ声がする /紫野春「塔」2017年5月号 この膝をあふれてしまいそうなほど猫のからだのゆるんでおりぬ /田村穂隆「塔」2017年5月号 うつすらと眠ると言ひしわが乙女わたしの耳に言葉とねむる /千村久仁子…

塔5月号作品1より

細部を詠めという声つよく押しのけて逢おうよ春のひかりの橋に /大森静佳「塔」2017年5月号 詠むために細部に目を向けることを今はあえて拒み、もっと感情のままに本能のままにあろうとする、高らかな宣言のような一首である。その心にあるのは、短歌に対す…

塔5月号月集より

子の口のなにがさびしいゾウの耳キリンの角を交互に噛んで /澤村斉美「塔」2017年5月号 小さなわが子がぬいぐるみのゾウの耳、キリンの角を噛んでいる。おそらく母に見られているという意識はなくただその行為を繰り返している。その姿を外側から見ていると…