欅のみえる家から

中田明子(なかた あきこ)のブログ。心に響く短歌の備忘録。塔短歌会。

2017-08-01から1ヶ月間の記事一覧

葛原妙子随筆集『孤宴』より

私のもっとも好ましい歌のあり方を述べるならば、私は歌うことで訴える相手をもたないということである。故に歌は帰するところ私の独語に過ぎない。ただ独語するためには精選したもっともてきとうなことばが選ばれなければならないのである。 こうして私は、…

一首鑑賞〈一尾の魚〉

水中より一尾の魚跳ねいでてたちまち水のおもて合はさりき /葛原妙子『葡萄木立』 葛原妙子の有名なこの一首は、「たちまち水のおもて合はさりき」という新しいものの見方を提示したいわゆる発見の歌として読まれることが多いように思う。河野裕子は「言葉…

塔7月号作品2より②

喋るときひとの唇ばかり見る娘は弦のように座りて /石松佳「塔」2017年7月号 そのまなざしは、話す主体を射すくめてしまうほどまっすぐなのでしょう。「弦のように」という喩が魅力的で、繊細な感情をはりつめるようにして見つめる娘の姿が浮かんできます。…

塔7月号作品2より

何げなくドアを開けたら満開といふくらがりのさくらさくら /福田恭子「塔」2017年7月号 昼間にも気がつかぬままに、何げなくドアをあけたらくらがりのなかに桜が満開だったという、どことなく不思議でどことなく不穏な感じのする一首です。おそらく実景であ…

塔7月号月集・作品1より

つぎつぎに羽ばたくごとき音のして梅雨の駅から人は去りゆく /吉川宏志「塔」2017年7月号 梅雨の日の駅、人々が雨脚をたしかめ手元に傘をひらき駅を出てゆくほんのつかの間、雨、いやですね、とでもいうような気持ちのなかに互いに心をかすかにかよわす一瞬…

葛原妙子歌集『葡萄木立』

このところ葛原妙子歌集『葡萄木立』を読んでいました。次第に葛原妙子の世界に夢中になっていくのを感じながら読みました。(旧字は代用しています) ◆二つのものの生の相似を掴む比喩 あゆみきて戸口に鈍き海見えし猫は月光のやうにとどまる 飲食ののちに…