塔2月号若葉集より
泣いている理由は言わず人型を満たせるように子の育ちゆく
/八木佐織「塔」2017年2月号
思春期の子だろう。感情の襞をどんどん増やしつつ、けれど言葉数の少なくなるこの時期の子どもというのはまさしくこんな感じなのだろう。巧みな比喩だと思う。
たけなわのときを経てみな終わりゆく木犀かおる祭りの宵も
/紫野春「塔」2017年2月号
上句は箴言的な感じもするが、それが木犀のかおる季節の祭りの賑わいが終わってゆく夜のさみしさであるところがいいなと思う。木犀のかおりというところに読者の嗅覚も働き、祭りの匂い、祭りが終わったあとの匂いをも連想させ、さみしさが手触りをもつ。
ムーン・リバー どんな名前で呼ばれてもわたしのこととすぐに分かった
/稲本友香「塔」2017年2月号
不思議な雰囲気をまとう。「ムーン・リバー」とだけある初句、映画の、あの曲を聴いているのだろうか。それとも文字どおり月のひかりが川面に映ってひとすじの道のようになるその情景のことを言っているのだろうか。いずれにしても情感のあるその雰囲気のなかで、主体は自分が呼ばれたことを感じとる。名を呼ぶそのひとと主体の想いの往還をも想像させ、余韻の残る一首。
しろがねの匙のくぼみにひつそりと古き木枠の窓しづみをり
/岡部かずみ「塔」2017年2月号
銀色の匙のくぼみの部分に窓の木枠が映っているその景を描写しつつ、 そこに静謐な時間が流れていることをも思わせる。「ひっそりと」はだめ押しになっているかも。