欅のみえる家から

中田明子(なかた あきこ)のブログ。心に響く短歌の備忘録。塔短歌会。〈西窓の欅の右へと日没の場所の移りて春が近づく〉

〈膝に咲く〉

会いに行こうと思ったことはあるけれどそのたび膝に芙蓉が咲いて 
/佐々木朔「夏の日記」『一月一日』vol.3

会いに行こうと思わないわけではなく会いに行こうと思ったことはある。一度ならず何度も。けれどそのたびに膝に芙蓉が咲くのだという。
芙蓉とはちょうど今頃の季節に咲くアオイ科の花。朝にひらいて夕方にはしぼんでしまう。学名のHibiscus mutabilisのmutabilisは変わりやすい、不安定な、という意味。
会いに行こうとはするもののそのたびにためらいの気持ちが出てしまう。作者にとってどんな関係の人であるかはわからないけれど、とても大切な、そしてどうしても会って伝えるべき何かがある人だろう。
ためらいの気持ちが生じるときのその感覚が膝に集中していくのが独特である。自分は会いに行こうとしているのに膝に芙蓉が咲くから行かれないのだといわんばかりの口ぶりが、会いに行こうという気持ちは十分にあるのに、むしろ会いに行かなければいけないとさえ思っているのに、それができないのだというどうにもならなさを表しているだろう。そしてなにより「膝に芙蓉が咲いて」がうつくしくてかなしい。