一首鑑賞〈窓〉
でもきみの背後にいつも窓はあり咲いているその花の名は何
/錦見映理子『ガーデニア・ガーデン』
恋人の背後にいつもあるという「窓」からみえるその「花」は、恋人の心のなかにある欲望や憧れの象徴だろう。その花は主体からは見えない。もしかしたら見たこともない種類の花かもしれない。愛する気持ちがつよければつよいほど恋人のすべてを知りたいと願うけれど、それはけしてたやすいことではない。
そして今日は眺めているだけの「花」だとしても、恋人はいつかそれを摘むためにその「窓」をあけ、主体のもとを去ってゆくかもしれない。主体がその日のくることを予感するのは、恋愛に翳りが生じているからではない。むしろ初句の「でも」は、あなたは誰よりも私を愛しているというけれど、ということであり、これはまさに恋愛のさなか。恋愛のさなかであるからこそ、痛々しくも浮き彫りになってゆく孤独がこの一首のなかには描かれている。