欅のみえる家から

中田明子(なかた あきこ)のブログ。心に響く短歌の備忘録。塔短歌会。〈西窓の欅の右へと日没の場所の移りて春が近づく〉

〈目守る〉

月明にひとが透けゆくくるしみを目守らば朝まなこ炎えなむ(朝:あした・炎:も)
水原紫苑『びあんか』

水原紫苑さんの歌は端正で格調高くときに難解だ。けれど時空をも越えてしまうようなスケールの大きい世界観がそこにはある。わからないながらも惹かれてしまう。
この歌もそんなひとつである。
月明かりに透けてしまうまで立ちつくすそのひとのくるしみへまなざしがそそがれている。そのくるしみをみつめつづけていればこのまなこは朝には炎となってしまうだろうという。
この歌を読んだとき思い出す小説の一節がある。井上靖の『額田王』、そのなかの中大兄皇子が月の夜、鬼火をみるシーン。国づくりのために外向きには非情なまでに厳しい顔しかみせない中大兄皇子の、人知れぬくるしみをみつめる額田王の心はこの歌のようではなかったかとふと思ったりするのである。