一首鑑賞〈アップルパイ〉
歩きつつアップルパイを食べているpost-truthの時代の中で
/廣野翔一「浚渫」
一読してなにより印象的なのは、たたみかけるように重ねられる「あ」音のあかるさである。このあかるさは単純なあかるさではない。どこか作りものめいた雰囲気がある。なぜだろう、アップルパイを食べている主体は無表情、無感情なのではないか...と思えてくる。あるいはpost-truthという時代の内包する不安からあえて目を背ける消極的意思があるようにも思えてくる。意識的に重ねられたであろう「あ」音がとても効いている。歩きながらアップルパイを食べるという行為のもつあかるさとともに、音のあかるさゆえに、その裏に隠された時代への不安感がたちのぼってくるのである。