欅のみえる家から

中田明子(なかた あきこ)のブログ。心に響く短歌の備忘録。塔短歌会。〈西窓の欅の右へと日没の場所の移りて春が近づく〉

塔5月号作品1より

細部を詠めという声つよく押しのけて逢おうよ春のひかりの橋に

/大森静佳「塔」2017年5月号 

詠むために細部に目を向けることを今はあえて拒み、もっと感情のままに本能のままにあろうとする、高らかな宣言のような一首である。その心にあるのは、短歌に対するあり方のことであるかもしれないし、また、詠むためにあるうちなるまなざしを拒まずにはいられないほどの、そういう状況にあるということなのかもしれない。

 

月と一緒 心も欠けていくことをいっしょに暮していけばわかるよ

/上澄眠 「塔」2017年5月号

望んで家族になった人であっても、一緒に暮らしていけばいろいろなことがある。心を消耗していくことだってある。そのせつなさをすこしずつ欠けていく月と重ねて印象的。そしてこの一首のよさは月であればまた満ちていくこともあるということ。

 

この街のひかりは濃くて少しずつ話す速度がゆっくりになる

/白水麻衣「塔」2017年5月号

街に降りそそぐひかりの濃さが自分や相手にあたえるものを話す速度のなかにとらえる、という感覚的でありながら惹かれる一首である。

 

ちいさな亀に大きな影のあることもふいに哀しき冬の入り口

/橋本恵美「塔」2017年5月号

陽の傾きや季節によって影は大きくもなり小さくもなるものだが、そのことをちいさな亀に見いだしてどこか暗示的に哀しみをとらえている。それは「冬の入り口」という季節のなかに立つ主体自身のかなしみの投影であるかもしれない。