塔2月号作品1より
ゆうぐれは機内にも来てたのしんだ?と友に聞かれるような寂しさ
/朝井さとる「塔」2017年2月号
「たのしんだ?と友に聞かれるような寂しさ」が印象的。たのしんだ?とあらためて聞かれ、ああどうだったのだろう自分は、と振りかえるときのうっすらとした不安感にも似た寂しさ。
傘を前に傾げてさすにがらあきの背を射るいく筋ものひかり(背:せな)
/白石瑞紀「塔」2017年2月号
前から降りこんでくる雨を防ごうと傘を前に傾げて行くひとの、その背中はまるで無防備。その無防備な背中が夜の街のとりどりのひかりに照らされるのを見つめているのだろう、親愛の情を抱いて。四句、五句の句跨りにかすかなゆらぎを感じさせつつ、雨とひかりの相乗効果の美しい場面である。
遠く暮す子にふれたがるてのひらに辿りゆくための窓ほどの地図
/しん子「塔」2017年2月号
ふれたいけれどふれられない、会いたいけれどなかなか会えないそのさみしさが、てのひらを地図へと向かわす。そのてのひらを受けとめるのは、窓ほどの大きさのある地図。その地図の中にてのひらを辿らせて会いにゆくのだろう。
夜の底に針山ありてひえびえと刺してゆくのは怒りとひかり
/澄田広枝「塔」2017年2月号
夜の底に見えるのは針山と主体ただひとり、あとはひえびえとした静寂があるのみ。その静寂のなか、針山に針を刺してゆく。怖さがありながらも心を掴まれる一首である。