欅のみえる家から

中田明子(なかた あきこ)のブログ。心に響く短歌の備忘録。塔短歌会。〈西窓の欅の右へと日没の場所の移りて春が近づく〉

塔1月号月集より

しなくてもいい結婚をして人は濡れてゆく草夜半の雨に

/澤村斉美「塔」2017年1月号 

人生にはいくつも分かれ道があって、その都度ひとつの道を選びとっていく。そうして選んだ道はけして楽しいことばかりではない。けれど酸いも甘いもすべてを引き受けて人は生きてゆくのだ。夜半の雨を一身にうけて濡れてゆく草の姿に、そのかなしみが託されている。

 

陸と海をそこに置きつつ秋の日の硯はくろぐろしづまりてをり

/梶原さい子「塔」2017年1月号 

硯の形状は言われてみればたしかに陸と海。墨を擦ると陸はしっとりと濡れて、海はその黒を深める。硯のもつ独特な存在感を見事にとらえた一首。そして「くろぐろとしづまりてをり」という把握がむしろその息遣いさえも感じさせ、この一首は硯にとどまらないひろがりをもつ。

 

おやすみってもう秋だからおやすみって合歓の赤い花にささやく

/藤田千鶴「塔」2017年1月号

合歓は夏の花であるにもかかわらず、思いのほかながく咲き続けているのを見かけることがある。秋になっても咲いている花をみるとなぜだろう、どこか痛々しい。そんな心情を童話のようなやわらかくあたたかな詠いぶりで表現している。