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欅のみえる家から

中田明子(なかた あきこ)のブログ。心に響く短歌の備忘録。塔短歌会。〈西窓の欅の右へと日没の場所の移りて春が近づく〉

〈渇く〉

一首鑑賞 小原奈実

皮膚すこしあざみに破り冬の野の生きて渇けるなかへ入りゆく

/小原奈実「錫の光」『穀物』第3号

この歌に不思議なほど心惹かれてしまう。

まず、上句において「腕」や「指」ではなく「皮膚」というところまで接近して描写することのなまなましさ。また「破」るという言葉は一般には紙や布につかうことが多いが、これを皮膚に対してつかうとき「傷つける」という場合よりもどこか残酷性を増す。

そして、冬の野が「生きて渇ける」ものだという把握も研ぎ澄まされている。ここでも「乾く」ではなく「渇」くという言葉をえらぶことにより、「乾く」よりもよりつよく潤いを求め、渇望するエネルギーのようなものが読者の前に提示される。そのエネルギーは冬の野のエネルギーであると同時に、皮膚を破ってもなおそのなかに歩みをすすめる主体そのもののエネルギーであり、それを炎にたとえるなら青白い炎のようである。

このように書きながらも一方では思ってしまう。静謐な描写のなかに秘められたこのひややかな熱量は、言葉で分析しようとしても遠ざかってしまう、ただしずかに味わえばいいのではないだろうか、と。