欅のみえる家から

中田明子(なかた あきこ)のブログ。心に響く短歌の備忘録。塔短歌会。

〈白木蓮〉

両岸をつなぎとめいる橋渡りそのどちらにも白木蓮が散る(白木蓮:はくれん)
 /永田紅『日輪』

これは作者が大学受験を終え浪人生活をはじめた頃の歌である。
まず目をひくのは、橋とは両岸をつなぎとめているものである、という把握である。
歌集には〈対岸をつまずきながらゆく君の遠い片手に触りたかった〉という歌があり、ここでも〈対岸〉は届かない君が存在する場所の象徴としての意味合いがあるように思われる。
掲出歌にもどれば、実際には橋がなければ両岸が離れていってしまうということはないのであって、そこには〈岸〉あるいは〈対岸〉というものに作者の心境が投影されていると思われる。〈対岸〉は大学進学を決めて新しい道を歩みはじめた友人たちのいる場所であろうか。これから浪人生活をはじめようという作者にとって眩しくも届かない場所であっただろう。
作者が橋を渡りゆくとき、こちらの岸にも、対岸にも、白木蓮は同じように散る。白木蓮は同じように散るのに、こちらの岸と対岸とはまったくちがう世界なのである。それがせつない。