〈バス〉
生きいそぐことからすこし外れてく気がしてバスの中ほどに立つ
/坂井ユリ「梢、また表情を変えない冬」『京大短歌』22号
生きいそぐ、とはかならずしもいい意味でつかわれる言葉ではないが、この上句には生きいそぐことから外れていくことへの不安感、焦燥感がただよう。まわりの友人は明確な目標があって、それをかなえるためにいつも忙しそうで....翻って自分はどうだろうか。たとえ生きいそぐことが正しいわけでなくともそうであらなくては、と思う日もある。
そんなとき作者はバスの中ほどに立つ。生きいそぐことができない、そんな自分には前はどこかしっくりこない。かといって後ろから遠く前方を眺めるのではなく中ほどに立ち、そこに自分の身体を保つことによってみずからの不安や焦燥にあらがおうとする。そんな作者の姿がみえてくる。