〈声〉
ユトレヒト、ときみが言う声わが裡の焚き火の穂先すこし揺らして
/大森静佳「金色の泥」『京大短歌』22号
ユトレヒト、という異国情緒あるうつくしい名詞にまず引きこまれる。ユトレヒトとは中世の街並みと運河のうつくしいオランダの都市である。
ユトレヒトという言葉は作者にむかって発せられたのか、それともきみがほかの誰かと話している声だけが聞こえたのか。いずれにせよわたしはきみの口から発せられるユトレヒトといううつくしい響きを聞いた。
それはわたしの見知らぬ場所、きみだけが行く(あるいは行ったことのある)場所だろうか。ユトレヒトのその奥にひろがるきみの世界、わたしの手の届かない世界を思うのだろう。そしてその思いが裡なる焚き火の穂先をすこし揺らすのだ。
そのほかに...
きみがきみを脱ぐまでのもうしばらくを春のクリームブリュレ崩して
〈痩女〉彫りつつ痩せてゆくゆびにきみの遠のく夜がしずかだ(痩女:やせおんな)三日月は鋭くほそくのぼりつめ、とは言えわたしを生かす夜空の