欅のみえる家から

中田明子(なかた あきこ)のブログ。心に響く短歌の備忘録。塔短歌会。〈西窓の欅の右へと日没の場所の移りて春が近づく〉

〈風のかたち〉

ああそうだルドンの花だ十三のわたしが見ていた風のかたちは
/久野はすみ『シネマ・ルナティック』 

この歌にはじめて出会ったときの衝撃は今もわすれられない。どこか懐かしく、やさしく、五感のすべてに触れてくるような、そんな風がわたしを吹き抜けたのだった。
十三のわたしが見ていたのは画家ルドンの花の絵であるという。その絵の花のありように風のかたちを見たという。つまりそのとき少女は〈そこにはない風〉を見ていたのだ。見ていた、といいながらその絵の前に立つ少女は視覚だけにとどまらず、風の音、風の匂い、風の手触り、それらすべてを感じていただろう。
絵の前に立ち、風を感じている少女、その少女に感覚をかさねるようにして読み手も風を感じる。そしてそんな少女のころの記憶を呼びおこし、記憶のなかの風を感じている作者に感覚をかさねるようにして読み手はそれぞれの風の記憶をたどるのである。
少女の見たルドンの花とはどんな花だったのだろう。