〈垂直〉
蝶が来て花に双翅たたみたり垂直は水平よりもさびしい
/三井修『海図』
垂直は水平よりもさびしい。感覚的かつ観念的な把握ではあるのだが、なぜだかわかる気がする。わかる気がしながらもそれを言葉で説明するのはなかなか難しい。
ふと浮かんできたひとつのイメージがある。それは岬に立つ灯台。はてしなく広がる海をみはるかす岬に立つ灯台のその孤独。生まれ故郷が能登半島であるゆえか、作者の作品には岬や灯台というモチーフがたびたび登場する。
あるいは中東の砂漠に長く暮らした作者であるから、広大な砂の世界にひとり立つみずからの孤独のかたちを思うのかもしれない。
いずれにしても、蝶が双翅をたたむという情景に託されたこの下句は不思議な共感を呼び起こす。そして読者の想像力を作者の内面にあるものへといざなう、そんな力をもつと思うのである。