飯田綾乃「微笑みに似る」より
そこだけが雪原の夢 プロジェクタの前にあかるく埃は舞つて
/飯田彩乃 第27回歌壇賞受賞作「微笑みに似る」
誰でも一度は目にしたことのある光景だろう。プロジェクタを点灯させるとひかりに埃が浮かびあがり、なんともいえない幻想的な感じがするのだが、それを作者は「そこだけが雪原の夢」と、叙情的な感性でうたう。誰もが見て知っている、漠然と感じたことのある、そんな光景を切りとってゆたかな表現力でうたうところが魅力的だ。
「雪原の夢」は夢の雪原でなく、雪原の夢であるところがいい。ファンタジックな方向に傾かずに儚いうつくしさが漂う。
また、一連の作品には比喩が多く使われている印象で、そこに作者の繊細で、鋭い感性が生きている。それがいい意味で奇抜でなく、やわらかく心にすっと入ってくる、そんなところに好感がもてる。
そのほか心に残る歌を挙げておく。
舳先より遠くへ腕を伸ばしつつ風とは花を手放す力
飛ぶ鳥の影を自転車で轢きしのち見上げる空の比類なきあを