欅のみえる家から

中田明子(なかた あきこ)のブログ。心に響く短歌の備忘録。塔短歌会。

塔掲載歌

塔5月号作品一首評より

いつまでをここにとどまるわたしだろう風が芒を逆立てて、秋 /中田明子「塔」2017年3月号 秋が深まると芒の穂は逆立てたように膨らみ、いっそう白くなる。いつの間にか春も、そして夏も通り過ぎて、今はもう秋。風が冷たい。それなのに私はまだこんなところ…

塔2月号永田淳選歌欄評に

縁うすきグラスをひとつ拭きあげてさびしさは指さきからくるもの /中田明子「塔」2016年12月号 グラスを拭いているときは、指先に意識が向かう。文字を書いているときや毛糸を編んでいるときもそうだ。作者の「さびしさは指さきからくるもの」という見解に…

塔12月号選歌後記に

塔12月号選歌後記にとりあげていただきました。 小雨降る坂に尾灯のあかあかとのぼり詰めたるのちを消えたり /中田明子「塔」2016年12月号 人を見送っているのだろうか。印象的なシーンを過不足なく歌う。結句の「を」が微妙な味わいを出しながらいい働きを…

塔9月号作品一首評に

塔9月号作品一首評にとりあげていただきました。 眸のふちにひかり溜めこみ姪三歳 望むと否とにかかわらず、姉(眸:め) /中田明子「塔」2016年7月号 この一首の不思議な雰囲気は、一字分のスペースを挟んで、上句と下句の対照的な言葉遣いからきている。…

塔9月号山下洋選歌欄評に

塔9月号山下選歌欄評にとりあげていただきました。 けむる春だれもが遠く つややかな檸檬の輪切りを口にふくめり /中田明子「塔」2016年7月号 春の季節感がよく表れている一首である。「誰もが遠く」という主体の把握は、輪切りの檸檬を口にふくむというさ…

塔8月号百葉集に

塔8月号百葉集にとりあげていただきました。 画家は終わりをみていただろう絵の青の奥へ奥へと鳥のはばたく /中田明子「塔」2016年8月号 絵に描かれているのは、鳥が飛んでいる途中の空間だけである。しかし、画家の目は、鳥がどこへ飛び去っていくかを見…

塔5月号選歌後記に

塔5月号選歌後記にとりあげていただきました。 館内にあがなう葉書のその貌に絵に見たる翳写りておらず /中田明子「塔」2016年5月号) 即物的に解せば、美術館と撮影のライティングの違い、ということになる。ただ、そうではない。写真はあくまで写真であ…

塔5月号花山多佳子選歌欄評に

塔5月号の花山多佳子選歌欄評にとりあげていただきました。 一通のメイル打ちつつきざしくる遠きいたみよ夜は明けゆく/ 中田明子(塔2016年3月号掲載) 「遠きいたみ」はどのようなものだろう。 この歌からそれを読み解くことは困難だ。しかし夜明け前に打…

塔4月号真中朋久選歌欄評に

塔4月号真中朋久選歌欄評にとりあげていただきました。 ひらくよりなければ白き昼顔は秋の日射しに傷みつつ咲く /中田明子「塔」2016年2月号 初句からの平かな表記も効き、白き昼顔の弱々しい状態が浮かぶ。そうするしかないことが人間の日常にもあると思…

塔3月号小林幸子選歌欄評に

塔3月号小林幸子選歌欄評にとりあげていただきました。この歌は1月号の百葉集にとりあげていただいた歌でした。 眠りいるあなたの息を聞きたればふいに感じる外側ここは/中田明子「塔」2016年1月号 起きている時は同じ世界にいるのに、相手が眠ったら途端…

塔1月号栗木京子選歌欄評に

塔1月号栗木京子選歌欄評にとりあげていただきました。 そのたびに均してきたる感情かサラバンド聴くときにこぼるる /中田明子「塔」2015年11月号 「感情」、しかもたびたび「均」す必要のある感情とはどんなものだろう。初句の唐突さと謎かけのようなニュ…

塔12月号若葉集評に

塔12月号若葉集評にとりあげていただきました。 ひかり射す角度が色となることの今わたりゆく日盛りの橋/中田明子「塔」2015年10月号 「ひかり射す角度が色となる」という色合いの風景を、多くの人は見たことがあるだろう。その風合いは色であって色ではな…